中国通信大手の3社が、米国のニューヨーク証券取引所(NYSE)で上場廃止になりました。その3社とは、中国電信(チャイナ・テレコム)、中国移動(チャイナ・モバイル)、中国聯合(チャイナ・ユニコム)です。米国民がこの3社の株取引をすることはできなくなりましたが、引き続き香港証券取引所での取引は続くので、私たち日本人はSBI証券等で取引できます。そこで今回の記事では、日本人の私たちにとってこの中国通信大手の3社は投資に値するのかを見ていきたいと思います。
はじめに:なぜ米国で上場廃止になったのか
ことの発端は、トランプ前大統領が2020年11月12日に発した大統領令によるものです。簡単に言えば、「一部の中国企業が中国政府と密接な関係にあり、米国資本を利用して中国の軍事力強化に結び付いている」という理由で、通信機器大手のファーウェイや、建設大手の中国交通建設に加えて、今回のトピックスである中国通信大手の3社などへの投資を禁止しました。
この中国通信大手3社は、ニューヨーク証券取引所で約20年に渡って取引されてきましたが、2021年1月11日に大統領令が発効し、米国民と米企業による投資ができなくなりました。
中国通信大手3社の株価チャート(香港ドル建て)
では、この米国での上場廃止の中で、3社の株がマーケット(香港証券取引所)でどう動いていたのかを見ていきましょう。
上図は、直近2年間の株価チャートです。これを見ると、3社とも右肩下がりです。実際株価は2年前に比べてほぼ半値になっています。
次に、直近1ヵ月のチャートです
直近1ヵ月のチャートを見ると、2021年1月8日に3銘柄とも売られ、株価がどかっと下げています。これは、3社が米国で取引禁止になったことで、MSCIなどのインデックスから削除され大量の売りがでたことが原因にあります。
逆に言えば、「米国での取引禁止」による株価の下げは、この1月8日を起点に終わった(底値をつけた)と見ることもできると思います。
実際、1月8日を起点に、チャイナ・テレコムは約19%、チャイナ・モバイルは約16%上がっており、チャイナ・ユニコムも小幅ながら上昇を見せています。
中国通信大手3社のファンダメンタルズ
前提:営業キャッシュフローマージンを見る
営業キャッシュフローマージンの計算は以下の通りです。
営業キャッシュフローマージン(%)
=営業キャッシュフロー÷売上高
営業キャッシュフローとは、本業の事業活動によって稼いだキャッシュフローのことで、企業の「稼ぎ力」を見る指標となります。
Market Hack編集長の広瀬隆雄さんは著書「世界一わかりやすい米国式投資の技法」の中で、「営業キャッシュフローの良い会社を買え」と言っています。そして、その営業キャッシュフローの良し悪しを判断する基準として「営業キャッシュフローマージンが15~35%ある会社」と書かれています。
ですので、今回は営業キャッシュフローマージンがどれくらいあるかという視点で、中国通信大手3社を見ていきます。
中国電信(チャイナ・テレコム)の業績
2019年の売上高は3,576億人民元(約5.8兆円)で、3年間(2016~2019)の平均営業キャッシュフローマージンは28.33%です。
中国移動(チャイナ・モバイル)の業績
2019年の売上高は7,459億人民元(約12兆円)で、3年間(2016~2019)の平均営業キャッシュフローマージンは31.46%です。
中国聯合(チャイナ・ユニコム)の業績
2019年の売上高は2905億人民元(約4.7兆円)で、3年間(2016~2019)の平均営業キャッシュフローマージンは31.63%です。
3社の営業キャッシュフローマージンはいずれも、30%前後と非常高い水準を示しています。試しに、日本の大手通信会社と比較してみましょう。
日本の通信会社との比較
会社名 | 売上高(2019年) | 営業キャッシュフローマージン (2016-2019の平均) |
中国電信 (チャイナ・テレコム) | 5.8兆円 | 28.33% |
中国移動 (チャイナ・モバイル) | 12兆円 | 31.46% |
中国聯合 (チャイナ・ユニコム) | 4.7兆円 | 31.63% |
NTT | 11.9兆円 | 22.70% |
KDDI | 5兆円 | 24.50% |
日本のNTTは中国移動(チャイナ・モバイル)、KDDIは中国電信(チャイナ・テレコム)と中国聯合(チャイナ・ユニコム)とほぼ同規模の売上高を上げていますが、営業キャッシュフローマージンは25%に満たず、中国通信大手3社より低くなっています。
この基準でいけば、中国通信大手3社は、日本の大手通信会社よりも経営効率が高く、優良企業であると言えます。
配当利回り
会社名 | 配当利回り (21/2/3時点) |
中国電信 (チャイナ・テレコム) | 5.41% |
中国移動 (チャイナ・モバイル) | 6.74% |
中国聯合 (チャイナ・ユニコム) | 3.63% |
NTT | 3.57% |
KDDI | 3.62% |
配当利回りを見ると、中国移動(チャイナ・モバイル)が6.74%、中国電信(チャイナ・テレコム)が5.41%とかなりの高配当になっています。
配当利回りで株価の割安度をはかる
配当利回りの計算は、(一株当たり配当金/現在の株価)×100で求められます。
つまり、配当利回りを高めるためには、分子にあたる一株当たり配当金を上げるか、株価が下がるかのどちらかになります。
中国通信3社とも、配当金が歴史的に見てすごく高い水準にあるわけではないので、配当利回りを押し上げている要因は株価の低下にあります。つまり、株価が安すぎるので、配当利回りが5%や6%台になっていると見ることができるのです。
配当金が特別上がっているわけではないのに、配当利回りが通常より高い場合は、株価が割安に放置されていると考える要因になり得ます。
最後に
今回の記事では、中国通信大手3社が投資に値するのかについて見てきました。
結論として、業績は日本のNTTやKDDIよりも良いのに、株価が割安に放置されていることから、投資に値すると僕は考えます。
ただ、米国で取引禁止になっている以上、それなりの理由があるということも頭に入れて置く必要はあります。
政治的・社会的な理由などで中国の会社に投資するのは気が進まないという方もいるかもしれません。僕もその気持ちは良く分かります。ですが、日本人にとってのNTTやKDDIのように、中国人にとってもこれらの会社は生活を支える基盤であることも事実です。
個人投資家としては、経済合理性やその他感情的な面も含めて、最後には自分で判断を下したいと思います。
また、中国電信(チャイナ・モバイル)と中国聯合(チャイナ・ユニコム)は先日紹介した香港ETF「トラッカー・ファンド・オブ・ホンコン【2800】」にも組み込まれているので、良ければそちらもチェックしてみて下さい。
また、営業キャッシュフローマージンで参考にした広瀬隆雄さんの本もオススメです。
※当ブログでは特定の銘柄に関する記述がありますが、投資を推奨するものではありません。投資の際は自己判断でお願いします。