ファイナンス

【米国企業】「水素社会」で注目される燃料電池の会社プラグ・パワーをご紹介

現在世界中で「脱炭素社会」が叫ばれている中、クリーンエネルギーの需要が高まっています。そのような中で注目されているのが、「水素社会」です。水素の発電には二酸化炭素が排出されないため、従来のガソリンやディーゼルに対して環境面で優れていると言えます。

そこで今回ご紹介したいのが、米国の会社「PLUG Power(プラグ・パワー:PLUG)」です。脱炭素社会の実現に一躍を担える企業だと思いますので、以下で詳しく見ていきたいと思います。

プラグ・パワーってどんな会社?

プラグ・パワーは、水素燃料電池(Hydrogen fuel cells)を提供している会社です。現在30,000ユニットを超える水素燃料電池を出荷しており、有名所では、アマゾンウォルマートの倉庫で、プラグパワーの水素燃料電池を使ったフォークリフトが活躍しています。燃料電池フォークリフトは、水素と酸素の反応により電気を作り出して稼働するため、二酸化炭素(CO2)を排出しないクリーンな作業環境を作り出すとされています。また、燃料電池は水素の充填(じゅうてん)にわずか3分ほどしかかからないため、クリーンな上に作業効率も上がると期待されています。

将来的には、フォークリフトだけでなく長距離トラックや、一般乗用車にも水素燃料電池を活用するととともに、水素給油ステーションの構築を目指しています。

プラグ・パワーは、燃料電池に関するビジネスの垂直統合のため、2020年に大手液体水素メーカーである「ユナイテッド・ハイドロジェン」と、電気を使って水から水素を生成する電解槽の会社「ギナーELX」を買収しました。このことにより、燃料電池に関連する技術や原料など一切の必要なものを内製できるようになりました。

(参考:ZAiオンライン:https://diamond.jp/articles/-/244117

燃料電池ってなに?

プラグ・パワーは燃料電池の会社なので、燃料電池とはそもそもなんぞやという疑問から始まりました。僕はガチガチの文系人間なので、「基本のキ」を学ぶために以下の本を参考にしました。

まず、「燃料電池=水素を燃料とする発電装置」と書かれています。つまり燃料電池は、水素と酸素を供給し続ける限り発電できる装置と言えます。これは身近にある乾電池(使い切り)やスマートフォンなどに使用されているリチウムイオン電池(充電して使う)とは性質が異なります。

では燃料電池の一番の特長は何かと言うと

一番の特長は、燃料電池は水素と酸素の反応で発電し、発電時に排出されるものは水だけで、環境にやさしいという点です。

(出典:「トコトンやさしい燃料電池の本(第2版)」森田敬愛著)

世界中で主要な電力として利用されている火力発電は、二酸化炭素(CO2)を排出するために地球温暖化の原因とされています。そのような中で、水素を燃料として発電する燃料電池は、電気を作る際に水のみしか排出しないため、地球にやさいいクリーンなエネルギー源として注目されているのです。

水素社会の実現に向けて

しかし、水素社会の実現には、以下のような課題もあります。

  1. コスト
  2. 水素の製造段階
  3. 水素ステーションの普及

①コスト

例えば、水素1キログラムの価格はガソリン1ガロンの価格に比べて、約4~8倍高いとされています。これでは水素を燃料としたFCV(燃料電池車)を開発しても、コストが高くなってしまい一般に流通するには至りません。実際、トヨタのFCV「ミライ」は税込み7,409,600円(2020年11月現在)と補助金なしでは手の届きづらい価格設定になっています(参考:https://toyota.jp/mirai/)。こうしたことから、水素社会の実現には、水素を低コストで大量に生産し、サプライチェーンを構築することが重要になります。

②水素の製造段階

水素を燃料として使う際には、水のみを排出するため、環境への負荷はないと言いました。しかし、問題は「水素の製造段階」です。現在水素は天然ガス・石油・石炭などの化石燃料を主な原料として作られています。例えば、最も一般的な製法である「水蒸気改質」では、化石燃料に水蒸気を反応させて水素を製造します。その際に、化石燃料を燃やす必要があるため、二酸化炭素(CO2)を排出します。

しかし、今は化石燃料ではなく、再生可能エネルギーから水素を製造する方法が推進されています。ここでは、太陽光や水力、風力などの再生可能エネルギーを電気エネルギーに変え、水と反応させることで水素を作り出すというものです。これは「水電解」と呼ばれ、先ほど少し触れたプラグ・パワーが買収した「ギナーELX」という会社が得意としている分野です。

そしてこの、二酸化炭素(CO2)を排出せずに製造する水素のことを「グリーン水素」と呼びます。

③水素ステーションの普及

水素はガソリンと同じように、水素タンクに水素が無くなれば、充填(じゅうてん)しなくてはなりません。しかし、2020年7月現在、その水素を充填するための施設である「水素ステーション」は全国に157基(うち計画中26基)しかありません。ガソリンスタンドが全国に約3万ヵ所、EVの充電設備が3万基以上あることを考えれば、まだまだ少ないことが分かると思います。(参考:https://motor-fan.jp/article/10017022

今回ご紹介しているプラグ・パワーは、北米の「水素ハイウェイ」の運営に関わっており、水素ステーションの提供も行っています。この水素ハイウェイは日本人にも馴染み深い、「シュワちゃん」ことアーノルド・シュワルツネガー氏が、2004年カリフォルニア州の知事だった時に施工されたもので、現在までに42の水素ステーションが配置されています。(参考:CAL MATTERSの記事

水素社会のマクロ動向

マッキンゼー社のレポート”Road Map to a US Hydrogen Economy“によれば、水素は2050年までに米国のエネルギー市場の14%を占め、米国の水素経済は7500億ドルの売上高が見込めるそうです。また、水素のバリューチェーンからおよそ340万人もの雇用を生み出すとされています。

さらに、現在世界最大の二酸化炭素(CO2)排出国である中国でも、「2060年までにCO2排出量を実質ゼロ」と宣言しており、今後環境規制がさらに厳しくなる中で、水素社会への注目がますます高まることが予想されます。実際、2020年9月には、北京市は新たに「北京大興国際水素エネルギーモデル地区」を設け、水素エネルギーのインフラを整備し、中核技術を持つメーカーの技術力を高めていく姿勢を打ち出しました。

EUでも水素社会への動きは加速しており、欧州エアバスのフォーリCEOは、2020年9月、水素を燃料とする航空機を35年までに事業化すると発表しました。航空機は世界のCO2の約2%を排出しているということで、水素燃料を航空機にも応用することができれば、CO2の更なる削減が期待できます。(参考:日本経済新聞「脱炭素社会へ大競争時代 中国は水素奨励、欧州は新税検討」

プラグ・パワーの将来性

さて、水素社会の重要性は分かったけど、プラグ・パワーが実際どれだけ売上を出していて、将来はどうなっていくのということが疑問に上がると思います。

プラグ・パワーは2020年11月9日に、2020年の第3四半期決算を発表しました。

第3四半期決算予想(ガイダンス)実際予想と実際の差額
EPS(一株あたり利益)-0.07ドル-0.04ドル0.03ドル上昇
売上高1億576万ドル1億699万ドル123万ドル上昇

プラグ・パワーの決算は予想(ガイダンス)を上回り、概ね好決算となりました。また、総請求額も1億2,560万ドルと、創業以来最高の数字を出しました。

まだ事業として利益は出ていませんが、2024年には売上高12億ドル営業利益2憶ドルを目標としており、事業拡大と黒字化をあと数年で実現する見込みです。

以下の画像は、総請求額がどれくらい上がっているかの推移を示しています。2014年から2020年までCAGR(年平均成長率)が30%となっており、2024年までにCAGR40%で成長すれば、目標である12億ドルを達成することができます。過去の成長率を見れば、この数字は不可能ではないと言えるでしょう。

燃料電池の販売も順調に右肩上がりで推移しています↓

まとめ

今後の「水素社会」を牽引する代表格として、米国のプラグ・パワー社を取り上げました。世界的な脱炭素社会の潮流の中で、水素や燃料電池はますます注目を集めるでしょう。しかし、まだまだコスト面や水素の製造、水素ステーションの普及など課題もあります。

身近なところで言えば、トヨタの水素燃料電池車「ミライ」が有名ですが、水素で走る自動車や飛行機などが一般に普及する未来は来るのでしょうか。僕自身、持続可能な社会の構築に非常に関心を持っているので、今後も水素社会の動向に目を向けていきたいと思います。