2021年に入ってから、ESG（E:環境、S:社会、G:ガバナンス）という言葉が一気に広まりました。これは、世界的な脱炭素社会の流れから、機関投資家を始めとした資金の出し手がより環境や社会に配慮のある企業への投資を積極化していることが挙げられます。実際、多くの機関投資家が脱炭素関連への投融資を決めており、例えば明治安田生命保険は「ESG投融資」を2023年度までの3年間で5,000億円実施する方針を明らかにしています。
このような流れから、私たちのような一般の投資家も無関心ではいられません。世の中の流れに乗り遅れないためにも、かんたんにESG投資とはなにかを見ていきたいと思います。
はじめに：ESG投資とは？
一般的にESGという言葉が語られる際に、「ESG投資」という投融資の文脈で語られることが多いです。そこで先ずは、ESG投資ってなにかという所から見ていきたいと思います。
ESGとは
ESGは、環境（E）、社会（S）、ガバナンス（G）の頭文字を取った用語です。下記の図にあるように、気候変動などの「環境課題」・多様性や人権、働き方などの「社会課題」・企業統治の「ガバナンス」の3つの指標を基に企業を評価しようという枠組みになっています。
ESG投資は、そうした3つのE・S・Gに取り組んでいる企業を適切に評価し、投資をする際の一つの指標としましょうという考え方になります。
2006年に国連責任投資原則（PRI）の発足
ESG投資の発端は、2006年に発足した国連責任投資原則（PRI）にあります。PRIは、機関投資家を対象に創設され、投資の意思決定にESGの課題を組み込むことを求めています。それ以前にもエコファンドや社会責任投資（SRI）などの考え方はありましたが、それらは倫理的観点が強かったため、あまり普及が進みませんでした。ESG投資を提唱するPRIは、環境や社会を考慮した上で長期的な投資成果を向上させることを前提としており、50の機関投資家が最初のメンバーとして署名しました。PRI発足から15年がたった現在、PRIの署名機関は4,115まで増加しており、ESG投資の考えを組み込む投資原則が世界に浸透してきていることが分かります。
GPIFのESG運用
私たちの年金を運用しているGPIF（年金積立金管理運用独立行政法人）もESG投資を取り入れています。2019年度のESG活動報告によれば、運用資産総額151兆円に対して、ESG投資の資産額が5.7兆円と、約3.8%を占めています。2018年度のESGの運用規模は全体の約2.2%だったので、数字上は確実に増えていることが分かります。
ESG投資の成長性
ブルームバーグの記事によれば、ESG投資の運用額は2025年には53兆ドルに達すると言われています。これは世界の運用予想総額のおよそ3分の1を占めており、金融市場におけるプレゼンスの高さが見て取れます。
下記のグラフによれば、2020年は欧州によるESG投資額の割合が世界のおよそ半分を占めていますが、2022年には米国が欧州の運用額を超す見込みとなり、それ以降は徐々に日本やその周辺国のESG投資額も増加していく見込みとなっています。
ESG投資に対する雑感
以前、ESG投資に関して以下↓のようなツイートをしました。
上場企業は資金を外部の投資家から調達して事業を営んでいますが、資金の出し手である銀行や機関投資家が、ESGを顧みない企業への出資を控える動きが出てきています。これはつまり、「ESGが企業の業績に直結する。」ということの表れだと思います。
ただし、気候変動やガバナンスなどの課題は短期的な成果として目に見えにくいため、10年先を見据えた経営をサポートできるよう投資家と企業の協業が必要になります。ESG投資はそうした「長期的視点」を可能にする考え方であり、持続可能な社会の実現に必要不可欠なものだと思います。
参考文献
ESG投資の基本を知るために、以下の本を参考にしました。
▽『ESG思考 激変資本主義1990-2020、経営者も投資家もここまで変わった』｜夫馬賢治著 ▽
こちらの本は題名の通り、まさに「ESGの考え方」を歴史的な背景と共に知ることができます。どのような経緯でESGが世の中に広まったのかを知ることで、過去の社会的責任投資（SRI）やCSRなどとの違いを確認することができます。
▽『SDGs、ESG 社会を良くする投資』｜日経ムック▽
こちらはESG投資の運用担当者の声や個別の企業の取り組みなど、より具体的な内容になっています。ESG投資に関わっている人たちの現状を知ることができます。
