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破壊的イノベーション「ゲノム技術」に投資ができるETF【GNOM】とは?

GNOMはグローバルX ゲノム&バイオテクノロジーETFと言います。「ソラクティブ・ゲノミクス・インデックス」への連動を目指しています。2021年4月1日現在、経費率は0.50%、純資産総額は2億287万ドル(約230億円)、Global X社が運用しています。Global X社は、2008年創業のETFに特化した運用会社で、ディスラプティブ(創造的破壊をもたらす)なテーマ型のETFなどを提供しています。

そもそもゲノム編集ってなに?

GNOMは、ゲノム解析やゲノム編集技術を用いて、医療に革命を起こすような企業がまとまっているETFです。でも、そもそもゲノムやゲノム編集ってなんぞや?という方も少なくないと思います。ですので、はじめに簡単にゲノムについて見ていきます。

ゲノムとは?

ゲノムは英語のgene(遺伝子)と、ome(~全体)をつなげた造語で、両親から受け継いだ全遺伝情報のことを指します。良く、お酒が飲める・飲めない人や、飲んでもすぐに顔が赤くなってしまう人がいますが、そういったことも私たちの遺伝情報に記録されているんですね。つまり、ゲノムを解析すれば、人間の成り立ちが細胞レベルで分かり、特定の病気のかかりやすさや、顔や性格まで分かってしまう可能性があるのです。

ゲノム解析の技術はどこまで進んでいるの?

人間の全遺伝情報(いわゆるヒトゲノム)の解析が始まったのが、1990年です。そして、そこから13年という長い年月をかけてようやく一人の被験者のゲノムを測定することができました。しかし、13年という時間だけでなく、コストも30億ドル以上(3,000億円以上)かかったと言われており、当時はまだまだ技術的には未熟でした。

そこから、技術の急速な進歩によって、米イルミナ社(後程紹介します)が最新鋭のDNAシーケンス装置(ゲノム解析装置)の開発に成功し、ゲノムの解析がたった数日、かつ1,000ドル(10万円前後)でできるようになりました。解析にかかる時間やコストはますます削減される見込みで、おそらく今は、より早く・低コストでの解析が可能になっていることでしょう。

2020年にゲノム編集の科学者2人が「ノーベル化学賞」を受賞

聞いたことがある方もいるかもしれませんが、2020年にフランス人のエマニュエル・シャルパンティエ氏とアメリカ人のジェニファー・ダウドナ氏の科学者2人が「ノーベル化学賞」を受賞しました。

彼女たちは、「クリスパー・キャスナイン(CRISPR-Cas9)」というゲノム編集技術の画期的な手法を開発しました。ゲノム編集技術はなにかというと、ゲノム解析をして、特定の病気を引き起こす遺伝子配列を見つけたとします。その病気を引き起こす遺伝子配列を正しいものに書き換えてあげれば、病気が治ったり、予防することができるかもしれません。この2人の科学者が発明した「クリスパー・キャスナイン」は、こういった悪さをする遺伝子配列をピンポイントで修正できる可能性を秘めた発明だったのです。

今後の展望

それでは今後ゲノム解析や編集の技術はどのように応用されていくのでしょうか?

今一番期待されている分野は、やはり医療分野への応用です。例えば、鎌状赤血球症(かまじょうせっけっきゅうしょう)という強度の貧血で激痛が伴う遺伝性疾患があるのですが、既にゲノム編集技術の介入が始まっており、劇的な効果を出したという報告がされています。(参考:CNET Japan

また、プレシジョン・メディシン(個別化医療)の分野でもゲノム技術の応用が期待されています。これは、患者のゲノムを解析することにより、個々の患者に最も適した薬を投与するなど、オーダーメイドの治療法とも言え、より自分に合った治療を受けられる可能性が模索されているのです。

ジーンクエストというゲノム解析ベンチャー社長の高橋祥子氏も、「2040年には、ゲノム編集による難病治療が当たり前になっているのではないか。」と語っており、今後の更なるゲノム技術の医療分野での応用が期待できます。

ゲノム技術への投資妙味はあるの?

この記事は投資対象としての「ゲノム技術」を見ているので、世界の投資家が「ゲノム技術」をどう捉えらているのかその声を一部ご紹介します。

2020年に100%以上のリターンを出したARKインベストメントという投資ファンド会社を運営するキャシー・ウッド氏がブルームバーグとのインタビューでこう発言しています。

The biggest upside surprises are going to come from the genomic space. And, that’s because the convergence of DNA sequencing, Artificial intelligence and gene therapies, importantly crispr or gene editing, are going to cure disease.

今後は、最も大きなサプライズがゲノム技術の分野からくるでしょう。そして、その理由は、DNAシークエンスやAI、そしてクリスパーなどのゲノム編集技術を使ったゲノム医療の融合によるもので、それは病気の治療につながるでしょう。

参考までにブルームバーグとのインタビューの様子を下記に添付します。(大体7分頃からゲノム分野の話が始まります)

また、日本のソフトバンクGもゲノム技術の分野に投資をしており、後述するパシフィック・バイオサイエンシズ社に2021年に入ってから約900億円の出資を行うなど積極的な姿勢を示しています。

これはあくまで一例ですが、「破壊的イノベーション」をテーマに投資をしているARKインベストメントや「将来の成長分野」に積極的に投資をしているソフトバンクGがゲノムの分野にも投資をしていることは、私たち個人投資家にとっても未来のテクノロジーを考える一つの指標となるのではないでしょうか。

そういった意味で、ゲノム技術の発展に投資をするという考え方は間違っていないのかなと思います。

それではここから、実際に投資対象となり得るETF【GNOM】の詳細を見ていきましょう。

グローバルX ゲノム&バイオテクノロジーETF【GNOM】のチャート

GNOMは設定日が2019年4月5日なので、まだ市場で売買されてから2年しか経っていません。そのため株価の変化はそれほど大きくないですが、設定日の株価15ドルから、現在23ドルになっており約53%の株価上昇を記録しています。2020年3月のコロナショック時には10ドル近辺まで値を下げましたが、そこからしっかり値を戻してきていることが分かります。

(2019.4-2021.4のチャート)

グローバルX ゲノム&バイオテクノロジーETF【GNOM】の分配金実績と利回り

まだ新しいETFということもあり、分配金実績は2020年の12月30日に支払われた、0.032402ドル(1株当たり)のみとなっています。2021年は6月と12月に分配金が支払われる予定となっていますが、仮に年間配当が0.064804ドル(1株当たり)だとしても、分配金利回りは0.28%程度にしかなりません。そのため、GNOMに投資する場合は、分配金狙いではなく、ゲノム分野の成長に投資をするという意識を持つ必要があります。

グローバルX ゲノム&バイオテクノロジーETF【GNOM】の構成企業

2021年4月13日現在、保有銘柄数は40社となっています。

以下に、組入上位10社と、気になった会社の概要を説明します。

(出典:GLOBAL X公式HP

保有銘柄第1位「パシフィックバイオ・サイエンシズ(PACB)」

保有銘柄第1位のパシフィックバイオ・サイエンシズ社(以下:PACB)は、遺伝子解析技術の開発や製造などを手掛ける会社で、次世代のDNAシーケンシングシステムを開発しています。この会社の大株主は、2020年に100%超えのリターンを出したARKインベストメント・マネジメント社で、PACB株の14.76%を保有しています。また、ソフトバンクGも株主に名を連ねており、2021年に入ってから9億ドルもの出資をするというニュースがありました。(参考:Bloomberg記事

ARK社やソフトバンクGなど破壊的イノベーションに投資をするような企業が注目しているということは、ゲノム編集技術の更なる発展が期待されており、PACBはその最先端を行く企業の一つという認識がされていると思います。時価総額は約63億ドル(約6,300億円)で、PERは191倍となっています。(参照:Yahoo Finance)

保有銘柄第4位 「イルミナ(ILMN)」

イルミナは、遺伝子配列技術の大手企業で、病気を引き起こす遺伝子変異(原因遺伝子)を突き止める技術(次世代シーケンス)を開発しています。イルミナの開発した最新鋭のシーケンス装置により、今まで多大なコストと時間がかかっていたヒトゲノムの測定が一気に身近なモノとなり、医療現場での更なる実用化が期待されています。

また、2020年にリキッドバイオプシー(液体生検)という血液検査でがんを特定できる技術を開発している企業「グレイル」の買収を発表しました。これにより、スクリーニングを受けた患者のがんによる死亡は40%近く減少すると同社は予想しており、がんの診断をより早期にできる可能性が高まっています。

2020年のイルミナの売上高は約32億ドル(約3,200億円)で、2021年にはおよそ17~20%の売上高の成長を見込んでいます。(参考:Illumina Reports Financial Results for Fourth Quarter and Fiscal Year 2020

時価総額は586億ドル(約5兆9,000億円)となっており、かなり大きな企業になっています。これは大体ツイッターの時価総額(572億ドル)とほぼ同じくらいなので、市場では既に高い評価を受けていると言えます。

保有銘柄第5位「クリスパー・セラピューティックス(CRSP)」

クリスパー・セラピューティックス社(以下:CRSP)は、2013年にスイスで設立された医療ベンチャー企業です。共同創業者の一人は、クリスパー(最先端のゲノム編集技術)の発明者で、2020年にアメリカ人のジェニファー・ダウドナ氏と共にノーベル化学賞を受賞した、フランス人科学者のエマニュエル・シャルパンティエ氏です。

CRSP社は、「βサラセミア」という血液疾患の治療を目的とした臨床試験を行っており、赤血球をつくる幹細胞にクリスパー(ゲノム編集技術)を用いた療法を採用しています。まだ、初期段階ですが、良好な途中経過を報告しており、医療現場での応用が有望視されています。

また、上で紹介したPACB社と同様、CRSP社の大株主もARK社となっており保有比率は約14%となっています。今波に乗っている世界のトップファンドが保有比率を上げるほど注目されている会社・業界ということですね。2021年4月時点の時価総額は約90億ドル(約9,000億円)で、株価は118ドルとなっています。

まとめ:ゲノム技術の活用はすぐそこにある

ここまでゲノム技術が進化した背景には、AIやコンピュータ技術、クラウドの発展など様々なテクノロジーの発展との融合があるようです。最近よく、「エクスポネンシャル・テクノロジー」という言葉を聞きますが、様々な技術が混ざり合って、指数関数的に成長していくという、まさに私たちはそういう世界に生きているのだと感じています。

今後ゲノム技術が実生活に応用されていくにつれて、安全性や倫理的な議論もなされていくと思います。そういった時に、難しそうだし良く分からないと右から左に流すのではなくて、少しでもアンテナを張って議論に参加もしくは自分の意見を持てるようになりたいと、この分野を勉強しながら感じました。

投資は当然自己責任ですが、ゲノム技術の発展は私たちの健康で長生きしたいという本質的な欲求を手助けしてくれるテクノロジーになると思います。そういった人間の根源的な欲求を解決する分野というのは、今後伸びていくだろうというのが私の考えです。その際に、一般の個人投資家でも今回紹介した「GNOM」であれば、日本の証券会社からでも売買することができます。

今回の記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。

※筆者は、ゲノムの分野について素人ですので、よりこの分野に関して詳しく知りたい方は以下の本を参考にしてみて下さい。

参考文献

私がゲノムについて調べる際に一番初めに読んだ本です。マンガになっているので、すら~っと読めてしまいます。マンガとは言っても内容はすごくしっかりしているので、まずは概要について知りたい方にオススメです。

こちらの本はジャーナリストの方が書いており、一般の人にも非常に分かりやすく書かれています。また、著者の小林さんが、ゲノム技術を手放しで褒めたたえるのではなく、メリット・デメリットを中立的な立場で考察されている部分もさすがだなと感じました。この本を読んで、ゲノム技術の今後を追っていきたいと素直に思うようになりました。