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投資家なら絶対に知っておきたい米国の製薬会社10選(後編)

今回の記事は、「投資家なら絶対に知っておきたい米国の製薬会社10選」の後編になります。

前編はこちらから☟

投資家なら絶対に知っておきたい米国の製薬会社10選(前編) 今回から、前編と後編の2回に分けて、「米国の製薬会社」を取り上げたいと思います。2020年にコロナウィルスのパンデミックが起きて以来、...

⑥ バーテックス(VRTX)

バーテックスは、1989年に設立されたアメリカのマサチューセッツ州に本拠地を置く、比較的新しいバイオ医薬品企業です。バーテックスで特筆すべきことは、その成長のスピードです。下の図にある売上高は、2015年以降急激に伸びており、年平均売上高成長率は44%になります。

この売上高の伸びを支えている医薬品が「のう胞性線維症の治療薬」です。のう胞性線維症の患者の約90%が治療可能で、市場でほぼ独占的な地位を築いています。この売上高の伸びに比例するように、株価も2012年の40ドルから、現在の株価213ドルまで430%もの上昇を示しています。しかし現在は直近の高値303ドルから、100ドル近く値を下げています。これは、新薬開発の治験が失敗に終わったことが理由にあるそうです。それでも、バーテックスの事業の優位性が揺らいだわけではなく、アナリストによれば現在の株価は割安だという意見もあるそうです。

⑦ イルミナ(ILMN)

イルミナは、ゲノム解析ソリューション・プロバイダーです。製薬会社ではないのですが、医療に関わる分野という大きなくくりで今回は取り上げています。2020年のノーベル化学賞に「ゲノム編集」の新たな手法を開発した女性の研究者2人が受賞しました。こうしたことからも、今後ゲノムの分野はますます発展が期待できると思います。ゲノム解析市場のリーディングカンパニーであるイルミナの株価は、過去5年で200%程上昇しており、市場からの期待が伺えます。

上の図は、売上高と純利益を示しています。爆発的な伸びという印象はないですが、利益率も常時20%前後を記録しており、手堅い事業を行っている印象を受けます。ゲノムの分野は今後ますます伸びると思うので、今後10年20年というスパンで見ていきたい企業です。

⑧ ブリストル・マイヤーズ(BMY)

ブリストル・マイヤーズは2020年の売上高が425億ドルと、2019年の261億ドルから164億ドルも上昇しています。売上増加の理由は、2019年11月20日に完了したセルジーン社(売上高:約150億ドル)の買収にあります。セルジーン社は血液がんの一種である多発性骨髄腫の治療薬「レブラミド」を製造・販売しており、これがブリストル・マイヤーズのパイプラインに加わったことは大きな強みになると思います。また、2021年2月15日にはCAR-T療法に使われる「ブレヤンジ」がFDAによって承認を受け、今後ゲノム分野での発展も期待されます。

売上高が順調に伸びているのに対して、株価は上り調子というわけではありません。株価はコロナ前の水準と同じか若干低いレベルで推移しており、株式市場からの評価はあまり高くないようです。しかし、世界でも有数の 製薬会社の一つであることには変わらないのでどこかでまた上がるタイミングが来ると見ています。

⑨ ギリアド・サイエンシズ(GILD)

ギリアド・サイエンシズは、「効果的な治療法のない疾患に対する革新的な治療を開発し、発見する」というミッションの元、HIVやB型・C型肝炎ウィルスの治療薬から、コロナ治療薬としても注目を浴びた「レムデシビル」の製造・販売を行う製薬会社です。ただし、下図にもあるように、売上高・利益・株価ともに近年は下降傾向にあります。2020年には、「レムデシビル」がコロナ治療薬として使用されるという期待から株価は一時85ドルまで上がりましたが、それ以降は下降を続け、2021年4月1日現在の株価は66.44ドルとなっています。

ギリアド・サイエンシズが示す2021年の見通しは、売上高237億ドル~251億ドルとなっており、2020年の247億ドルからほぼ横ばいの見込みです。ただ、営業キャッシュフローマージンは30%を超えており、キャッシュを稼ぐ力は強いので、今後の投資が売上に結び付くかどうかに注目していきたいと思います。

⑩ アムジェン(AMGN)

アムジェンは、ジョンソン&ジョンソン、メルクと並んで医療系の企業でダウ工業株30種に入っているバイオ医薬品メーカーです。循環器疾患、がん、骨疾患、神経疾患、腎疾患、炎症性疾患の6つの疾患領域に重点を置いており、日本国内でも循環器疾患領域で「レパーサ」、血液がん領域で「ビーリンサイト」、骨疾患領域で「イベニティ」、炎症疾患領域で「オテズラ」などの製品が販売されています。(参照:アムジェン「Featured News」

そして、アムジェンのすごい所は、キャッシュの生み出す能力です。本業からの儲けを示す営業キャッシュフローマージン(営業CF/売上高)は40%前後で推移しており、本業から多額のキャッシュフローを得ている他、EPS(一株当たり利益)も堅調に推移しているため、財務が極めて健全だと言えるでしょう。

株価は、割とボラティリティが高く、上がったり下がったりを繰り返していますが、長期で見たら右肩上がりになっています。配当利回りが2.8%で、配当性向も40%前後となっているので、株主還元と事業投資のバランスも良く取れているのかなという好印象を持っています。

まとめ

今回、2回に分けて米国の製薬会社を10社紹介してきました。

製薬会社への投資の有効性については、米国の投資金融専門誌の日本語訳版「バロンズ・ダイジェスト」で触れられていました。ここで一部引用します。

製薬会社は素晴らしいビジネスだ。健全なバランスシート、多額のフリーキャッシュフロー、持続可能な利益率があり、負債比率は低く、株主資本利益率(ROE)は高い。社会的責任を果たしており、ガバナンスも優れている。

2021年3月14日版『バロンズ・ダイジェスト』ー パンデミックと戦った製薬会社株が買い時より

ここに書いてあるのは、製薬会社は財務的にパフォーマンスが良いということですね。確かに今回見てきた製薬会社も利益率が20%~30%程と、非常に利益率が高い企業もあったり、それに伴い自社株買いや配当金などを通して株主還元を積極的に行う企業がありました。

僕自身、「健康でいたい」、「長生きしたい」という欲求は人間の根源的な部分だと思っています。多くの革新的な技術によって、不治の病と言われてきた病気がいくつも治るようになったり、寿命が延びたり、コロナウィルスという前代未聞のパンデミックにも人類は打ち勝とうとしています。そのどれも、製薬会社の力なしには語れないと思います。

今後も製薬業界は試行錯誤を繰り返しながらも発展を続けていくと思います。そんな業界について知るはじめの一歩として、この記事を読んでもらえたら嬉しいです。